YUGE (湯気

1936年、十歳の少年が父と母に連れられて食べた、一皿のオムライス。 それから五十三年。戦争も、結婚も、別れも、彼はいつも同じ席で同じものを食べてきた。 女将は毎回「今日はどうする?」と訊く。彼は答えない。答えなくても、いつもの皿が出てくる。 店が閉まる最後の日。彼は初めて、女将に何か言おうとする。 五十三年分の「ありがとう」を。けれど、言葉にならなかった。

1936年、十歳の少年が父と母に連れられて食べた、一皿のオムライス。 それから五十三年。戦争も、結婚も、別れも、彼はいつも同じ席で同じものを食べてきた。 女将は毎回「今日はどうする?」と訊く。彼は答えない。答えなくても、いつもの皿が出てくる。 店が閉まる最後の日。彼は初めて、女将に何か言おうとする。 五十三年分の「ありがとう」を。けれど、言葉にならなかった。